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【鉄道車両基礎講座】 その12 交流電化と電圧

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 交流電化の電圧

以前の記事で説明したとおり、直流電化区間の架線電圧は、日本国内では600V・750V・1500Vなどを採用しています。

これに対して、交流電化区間では在来線は2万V・新幹線では2万5千Vと直流電化区間に対してかなり高圧で電力の送電が行われています。

これは、民間私鉄として交流電化された阿武隈急行仙台空港鉄道つくばエクスプレス(首都圏新都市鉄道)なども同様で、電圧は2万Vとなっています。

なお、新幹線が在来線よりも高電圧となっているのは、電動比率の高い長編成の車両を高速で走行させるために大量の電気を供給する必要があるためです。

本州と北海道を結ぶ海峡線は、1988年に在来線として開業し、2万ボルトの交流電化で運用を開始しましたが、青函トンネルを新幹線と共有することから、2016年の北海道新幹線開業に合わせ、2万5千Vに昇圧されました。

そのため、新幹線と共用区間も走行する貨物列車の牽引機であるEH800形電気機関車は、2万V・2万5千Vの両方に対応する複電圧車となっています。

それでは、なぜ交流電化では非常に高い電圧で送電が行われているのでしょうか。

高電圧と送電による電力損失

交流電化において非常に高い電圧で送電が行われている理由は、電圧を出来るだけ高く送電した方が電力損失が少なくて済むからです。

一般的な鉄道電化では、電力は「架線」を経由して走行する電車に供給されますが、架線そのものにも「抵抗」はあり、電力損失は必ず発生します。

仮に、長さが10kmの銅線を用いた、以下のような電気回路があるとします。

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なお、送電線の断面積が1cm2であれば10kmの送電線の抵抗は1.72Ωだそうですが、ここでは計算しやすいようにこの抵抗を2Ωと仮定します。

ここで、電源Aから抵抗Bに対して100kWの送電を行い、電圧を1万Vかけた場合と千Vかけた場合を比較します。

電力は電流と電圧をかけた値ですので、電流は電力から電圧を割った値になります

「電力=電流 x 電圧」ですので、「電流=電力/電圧」となります。

また、オームの法則(電圧=電流 x 抵抗)により、電線の損失電圧を求めることができます。

送電される電力は、100kW(=100,000W)。

電線の抵抗は、10kmで2Ω

 

1万Vの電圧で送電した場合

電流=100,000W/10,000V=10A

往路の低下電圧=10A x 2Ω=20V

往路の損失電力=10A x 20V=200W

同様に、復路損失電力=200W

送電による損失電力(往復分)=200W+200W=400W

電力損失率=400W/100,000W=0.004

故に、0.4%の電力損失となります

 

1千Vの電圧で送電した場合

電流=100,000W/1,000V=100A

往路の低下電圧=100A x 2Ω=200V

往路の損失電力=100A x 200V=20,000W

同様に、復路の損失電力=20,000W

送電による損失電力(往復分)=20,000W+20,000W=40,000W

電力損失率=40,000W/100,000W=0.4

故に、40%の電力損失となります。

 

電力損失は、1万ボルトの電圧をかけた場合は0.4%であったのに対して、1千ボルトの電圧では40%となり、より高電圧で送電した方が電力損失を低く押さえられることがわかります。

直流電化が交流よりも電圧が低い理由

より高圧で送電した方が電力損失が低く抑えられることは、直流でも同じです。

しかしながら、日本の直流電化区間では電圧1500Vが主流で、それより高い電圧の区間はありません。

直流電化では、架線電圧を交流並みの高圧にすることができないのです。

前回の記事で説明しましたが、電車で使用されている主電動機は、かつてはそのほとんどが直流電動機でした。

これら主電動機の端子(電流の出入口)にかかる電圧(端子電圧)は300V〜750Vですが、直列つなぎや他の電気機器など、電車が必要とする電力を考慮して、電圧を1500Vとしています。

仮に、電圧2万Vの高圧電気をそのまま電車に送った場合、電車の走行機器などは焼き焦げて破壊されてしまいます。

電車は電気を取り込る際に電圧を許容範囲まで下げなければなりません。

この為、架線電圧が高い交流電化区間では、電力を受ける電車側で交流の電圧を下げた上で直流に変換し、車内に取り込んでいます。

交流の場合、変圧器(トランス)を使用すれば容易に電圧を下げることができるのですが、直流の電圧を下げるのは簡単にではなく、特に高電圧の場合はそれなりの大規模な設備が必要で、車上で2万Vもある電圧の下げることは非常に厳しいのです。

そのため、直流では予め使用される程度まで電圧を下げた状態で電気を架線に送っています。

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↑ 架線に送る電気は、直流電化では交流並みの高電圧にはできない。 

 

交流電化と直流電化のコストメリット

ところで、交流電化の場合は、送電による電力損失が少ないことから、直流電化に比べて変電所の間隔を長く取ることが可能です。

因みに、交流電化での変電所の間隔は50km〜100kmであるのに対して、直流電化では5km〜10km程度となります。

その他、交流電化では直流電化で必要な設備の一部を省略できることもあり、直流電化に対して地上設備側のコストを大幅に低減することができます。

しかしながら、交流電車や交直流電車では、車上で交流の電圧を下げて直流に変換する為の機器を装備しなければならず、車両コストは高くなります。

この為、交流電化は需要の少ない地域の輸送や動力集中方式に適した方式とされました。

東北・北海道・九州地区で交流電化が採用されたのも、この理由です。

しかしながら、JR在来線のように直流と交流が混在する場合、交直流電車を使うことになり、交流電化によるメリットは失われて、デメリットばかりが目立つ状況でした。

近年、整流器(交流を直流に変換する装置)が安価になり直流電化のコストが低下したことや、直流電車の性能が向上しかつコストも下がっていることから、新幹線などを別として交流電化のメリットは薄れつつあります。

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 ↑ 近年の直流電車の性能は向上にコストは下がっており、交流電化のメリットは薄れつつあります。