↑ かつて常磐線で運用されていた415系。交流区間では取り込んだ交流を直流に変換して使用していました。
交直流車の制御方式
日本の電気鉄道は、古くから直流電化方式により発展し、そこで使用される直流形電車では、抵抗制御方式により直流電動機を駆動する手法が長期に渡って続けられてきました。
一方、交流電化については、1957年の仙山線仙台駅-作並間を皮切りに東北や九州を中心に急速に広まりましたが、こうした地域では客車列車が中心であったことから、交流電車は新幹線や北海道などの例外を除き導入されることはありませんでした。
これに代わって製造されたのが交直流電車ですが、交直流電車は直流形電車をベースとして開発が行われたため、制御装置や主電動機などの機器は直流形電車に準じたものとなりました。
1960年以降、量産車として初の交直流電車となったのは近郊型の401系/421系で、それぞれ常磐線と北九州地区に投入されました。
これらの車両の主回路機器は、直流型である101系をベースとされ、交流区間で使用されたときの脈流対策が施されました。
制御方式は抵抗制御で、主電動機は 101系で使用された直流用直巻電動機の改良型が採用され、パンタグラフも交流20000Vでの使用を考慮して改良されたものが搭載されました。
交直流電車の基本的な考え方は、「直流区間では架線から取り込んだ直流電気をそのまま使い、交流区間では架線からの電気を直流に変換して使用する」というものです。
但し、直流電化区間の電圧(JR在来区間は1500V)に対して、交流電化区間の電圧は非常に高い(在来線は20000V)ことから、交流電気を架線から取り込んだ際は、まず電圧を直流レベルまで下げる必要があります。
そのため、交直流電車には、電圧を下げるための機器(変圧器)と電気を交流から直流に変換する機器(整流器)が搭載されています。
交直流電車の変圧器・整流器と制御装置・主電動機の配置を簡単に表すと以下のようになります。
直流区間では、架線から取り込んだ直流をそのまま使用します。
交流区間では、架線から取り込んだ交流に対して、変圧器で電圧を下げ、整流器で直流に変換して主電動機に供給します。
変圧器とその基本原理
変圧器とは、交流の電気の昇圧したり降圧したりする(電圧を変更する)為の機器で、生活の至るところで使用されています。
家庭用の電気製品でも小さな変圧器(トランス)が使用され、交流コンセントから得た電気の電圧を小さくして使用しています。
この変圧器の原理について、永久磁石とコイルを用いて、簡単に説明します。
まず永久磁石についてですが、ご存知のとおり磁石にはN極とS極があり、磁石の周りには磁場(磁石の力が働く場所)が発生します。
磁束(磁力線の向き)はN極からS極に向けて以下の向きで発生しますので、N極側では外向き、S極側では内向きに発生します。
次に、コイルと永久磁石を用意し、コイルと磁石のN極を近づけます。 コイルは磁石によってできた磁界の影響を受け、N極からコイルに向けて磁束が発生します。
一方、コイルには磁束の変化(磁束の密度の変化)を嫌う性質があり、磁束が変化するるとそれを妨げようとする力が発生します。
例えば、下図のようにコイルに磁石のN極を近づけると、磁束の密度は大きくなるため、それを妨げようする力がコイルの中に発生します。
コイルの中に、磁束とは反対側の向き(N極側に向かう向き)の力が発生すると、コイルの中には赤い矢印の方向に電気が流れます。
逆に、下図のようにコイルの磁石のN極から離そうとすると、磁束の密度は小さくなり、コイルの中には磁束と同じ向きの力が発生し、コイルには上図とは全く反対の向きで電流が流れます。
このように、コイル(導体)に永久磁石を近づけたり遠ざけたりすると、発生する磁束の大きさが変化し、その環境下にある導体に電位差(電圧)が発生しますが、この現象のことを電磁誘導といいます。 また、電磁誘導によりコイルに電流が流れますが、この電流を誘導電流といいます。
コイルを流れる誘導電流は、コイルに磁石を入れた場合(近づけた場合)と出した場合(遠ざけた場合)の向きは変わります。
変圧器は、この電磁誘導現象を利用します。 上記の実験で使われた永久磁石を1次コイル、誘導電流の発生したコイルを2次コイルと考えます。
上記の説明では1次コイルは永久磁石ですが、これを電磁石とし、1次コイルと2次コイルを繋ぐと以下の図のようになります。
1次コイルと2次コイルは鉄心(鉄の棒)で結ばれていますが、鉄心は、1次コイルで発生した磁束を2次コイルへ繋ぐ橋渡しの役割を持っていますが、鉄芯自体には電流が流れないないように、材質や構造を工夫してつくられています。
1次コイルに電流を流すと、コイル内部に磁場が発生し、鉄心を経由して2次コイルに影響を与えます。
但し、1次コイルを流れる電流が一定であれば、何も変化はありません。
1次コイルの電流の向きや電圧などが変わり、磁場の変化をした場合、2次コイルに電磁誘導が発生して電流が流れます。
このような現象を、相互誘導作用といいます。 ところで、この1次コイルに流す電流については、交流でなければなりません。
直流では電流は一定であるため、上記の理由により、2次コイルに誘導電流を発生させることはできません。
交流は、その流れる向きや電流・電圧は周期的変化しますので、1次コイルに流した場合、永久磁石の出し入れしたときと同様、鉄芯に発生する磁束が常に変化することで、2次コイルに誘導電流(交流))を発生させることができます。
変圧器の簡単な構造は以下のとおりです。
鉄心は、その端から磁場の漏れがないように、ぐるっと一周つなげた形になっています。
1次コイルに交流電流を流したとき、相互誘導作用によって2次コイルに発生する起電力の大きさは、2次コイルの巻数に比例するので、2次コイルの巻き数を変えることで、そこに発生する誘導電流の電圧の大きさを調整することが可能となります。
2次コイルの巻き数を少なくすれば、1次コイルよりも低い電圧の交流電流を発生させることができます。
変圧器では、このような仕組みにより、結果的に交流電流の電圧を変えています。